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2009年10月24日

なぜ情報理論を研究するようになったか

--- 余は如何にして極道になりし乎 ---

 私と情報理論との最初の出会いは学部学生のときの辻井重男先生の講義であり、2度目の出会いは 大学院生のときの岸源也先生の講義であった。岸先生は、今から推測するとシャノン博士の論文"A Mathematical Theory of Communication"を講義の原稿としておられたようで、講義中にたびたび「シャノンの理論は大数の法則の乱用だよ」と言われ たことを覚えている。この理由は、後にシャノン博士の論文を自分で読んだときに分かった。 成果の大部分が大数の弱法則を利用して証明されていたからである。しかしながら、今にして思えば、シャノン博士の論文は、 これから構築しようとしている理論の枠組を述べた論文であって、そこに数学的な厳密さを要求するのは酷である。
  最後のそして現在に至る情報理論との長いつきあいの始まりは、北陸先端大に赴任したときに始まる。 情報科学の分野で、今までに研究して来た光通信と接点のあるテーマを探したとき、情報理論の研究を思い立った。 手始めに、自分では身近な通信路符号化を研究テーマにすると共に、 情報源符号化を研究テーマとして学生に与え、研究室の輪講では定評のあるCover先生やGallager先生の教科書などを次々に読んだ。 そして、最も基本的な「情報源符号化定理」や「通信路符号化定理」でさえ、対象となる情報源や通信路を広げる度に、 新たな証明が行われてきたことを知り、情報理論が螺旋階段的に発展してきたことに気づいた。この後、独りでCsiszar先生とKorner先生の教科書を読んでからは、 シャノン博士が示した符号化定理を越えて遥かに精密な成果が得られていることを知り、情報理論の奥深さを知るに至った。この頃には、情報理論を自らの一生涯の研究テーマとして選ぶことを決心し、韓太舜先生のいうところの「極道」の研究テーマたる シャノン理論の研究に没頭することになった。ちなみに、シャノン理論とは数年前に亡くなられたBell研究所のWyner博士の 造語であり、何らかの(符号化)問題の限界とその限界を達成するアルゴリズム(符号化法)を追求する理論研究の総称である。 97年にロシアのBurnashev先生にお会いしたとき、シャノン理論は物理学と同じ位の広さがあると聞き、将来に わたり研究テーマの枯渇に苦しむことなく、安心して研究生活を送れることになった。
「私とシャノン」電子情報通信学会誌2001年12月号掲載 より抜粋
Posted by 植松友彦 at 2:16 午後
Edited on: 2009年10月24日 4:25 午後
Categories: 研究思想