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2009年10月24日

学問に王道なし

国王の数学の教師であったユークリッドに対して、国王が 「もっと簡単に幾何学を学ぶ方法はないか」 と尋ねたところ、 ユークリッドが 「幾何学に王道はありません」 と答えた話がある。それに引き替え、現在の教育はどうだろうか。 高校の数学では大学受験に出ない単元である幾何や統計は教えない。 塾や通信教育では各教科の要点だけを教えることで 定期試験や受験の効率的な突破法を指導する。 このような、「要点だけを短時間で簡単にマスターする」 という反ユークリッド教育があちこちで行われている。

大学でも、このような反ユークリッド教育に慣らされた輩が年々増加している。 そのため、大学で使うの教科書は年々薄くなり、要点だけのものになっていき、 講義もパワーポイントを利用して要点だけを述べた薄っぺらいものになってきている。 この輩は概して試験の成績は良い。しかしながら、このような学生は 研究室に入ると伸び悩むことが多い。なぜなら、 研究はどのような展開になるか一切予想のできない為、すぐ壁にぶつかるのだ。 彼らは解法がパターン化されていない未知の問題を解く事はできないのだ。

本来の教育とは、本を読んだときや講義を聞いたとき、 何が重要で何が重要でないかを自分で判別できるようにすることである。 次に、この能力を利用して、見たことのない問題に対し自分で解く方法を見いだせる ようにすることである。これは、生涯にわたる問題解決の方法であると共に、 人間としての自立を教えることに他ならない。 要点を教えてくれる人やマニアル本は常にあるとは限らないのだから。

それでは、このような人間を育成するには、 大学人として、どのような教育を行えばよいのであろうか。 一つだけ間違いないことは、そのような教育はユークリッド的で なければならず、時間がかかるということだ。教育に効率を求めてはならない。 ゆとり教育の時代に、このような時間のゆとりが必要な教育も認めてもらいたい。
Posted by 植松友彦 at 2:19 午後
Categories: ぼやき, 研究思想